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Amazon Prime Videoで配信中、ビヨンセにまつわる都市伝説が元ネタの摩訶不思議なドラマ「キラービー」で描かれた、”過激ファン”に共通する7つの要素を辰巳JUNKが解説。
Amazon Prime Videoで独占配信中! ドラマ「キラー・ビー」(原題:Swarm)とは?過激派ファン(=スタン)を主題にした話題のAmazon Prime Videoドラマ「キラー・ビー」。人気歌手の熱狂的ファンの主人公が連続殺人鬼となるサイコスリラー兼ダークコメディだ。同作の衝撃によりファンダムの問題にまつわる議論も活性化するなか「推し活」で陥ってはいけない教訓を考察。
「キラー・ビー」で連続殺人を行う主人公ドレは、ビヨンセのような人気歌手、ナイジャの大ファン。標的にした人物に「好きなアーティスト」を聞き、その答えが推しではなかったら殺害する「過激派」ぶりで視聴者に衝撃を与えた。
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犯罪に手を染める前も、推しのことを好きではない人を拒絶していたドレ。このような「全肯定以外は全否定」姿勢は、現実でも珍しくない。エマ・A・ジェーン准教授が言うところの「メディア上の軽度な推し批判すら自分ごとのように受け止める」自他境界があいまいな状態。
オハイオ州立大学ランディ・A・サンソーネらの研究では、有名人崇拝者のメンタルヘルス危険度が三段階にわけられた。
①娯楽&社交レベル:推しについてしゃべるのが楽しい②強烈&個人的レベル:推しは自分のソウルメイトであり、推しが死んだら生きていたくない、と感じる③境界異常レベル:推しに違法行為を頼まれたらやる
危険なのは②から。過度なセレブリティ崇拝は、ストーカー行為や衝動買い、乖離症状、自己陶酔的特徴を引き起こす可能性があるそう。
「キラー・ビー」の悲劇は、身内の不幸に見舞われた主人公が、現実から逃避するように推し崇拝を過激化させてしまうところ。先のオハイオ州立大学の研究でも、危険レベルの崇拝者は、元々精神的問題を抱えていたことが多く、自身の容貌への不安を持っていて美容整形しやすい傾向もあるという。
このようなプライベート問題を置き去りにする依存は、外出制限によりオンラインファンダムが活性化したコロナ禍で増加したと報告されている。心理学者アルフィー・ブリーランド・ノーブル博士によると、生活の困窮から現実逃避を求める際、きらびやかなセレブリティやそのゴージャスな世界に夢中になるのは自然な現象。バルバドス出身の黒人女性として億万長者になったリアーナのように、不利な状況から大成功を遂げた芸能人が崇拝者を惹きつけやすいそう。
「キラー・ビー」で印象的なのは、推しを「女神」とばかりに神秘化する姿。現実でも、自分の理想にもとづいて推しの言動を無視したり曲解したりするファンが問題になっている(参照:“推し”を健全に応援しよう! ファンがやってはいけない“推し活”行為7)。
あるインターネットユーザーは、推し文化の最たる問題とは「好きな人が人間であることを忘れること」だと意見している。「推しを手の届かぬ神や共有財のように扱いながら、自分たちと同じ欠点を持つ人間だとわかると捨て去る。そして、あらたに神台に乗せる対象をすぐに見つけていく」。
過激ファンを描く「キラー・ビー」において、アンチの存在は目立たないものの、この2つが表裏一体という説の参考材料になるかもしれない。「推される側」の立場たるプログラマー作家、ポール・グレアムは、過激ファンをこのように説明した。
「スーパーファンは過激で無批判だ。対象人物(≒推し)を好むこと自体がアイデンティティになっていて、現実のその人よりもはるかに優れたイメージを脳内で創りあげる。対象人物のすべての行いを、その人の行いだからという理由で正当化していく。対象人物がなにか悪いことをしても、それを正当化する方法を編みだすのだ。おおむね、彼らの愛情は穏やかでも私的なものでもない。過激ファンたちは、世の中の全員に対象人物の偉大さを知らしめたい」(”HATERS”より)
グレアムいわく、過激ファンとアンチは同じ存在。上の文の「好む」を「嫌う」、「正当化」を「否定」といった風に反転していけば、アンチの説明になる。「推される側」にとって出来ることはほぼ無いため「一部の人はちょっとおかしい」と考えて終わらせるべし、とのこと。
「キラー・ビー」のドレで特徴的なのが、推しの素晴らしさを主張する際、個人的な愛や評価ではなく、アワード受賞数というステータスを用いる点。実際、ナイジャのモデルにされたビヨンセは、史上最多のグラミー賞獲得記録を持つアーティスト。
推しの功績を盾にするファン行動は、ソーシャルメディアでは日常茶飯事。音楽界隈の場合、アワードのほかにもチャート成績や売上をつらねて「他のアーティストより格上」だと理論武装し、ライバルのファンダムと喧嘩をしていく。
ポップコミュニティにおいて、有毒な競争を防ぐ方法として挙げられているのは「推しと関係ない話に推しを絡めないこと」。たとえば、アーティストAにまつわる話題で、つい言いたくなったとしても推しBの名前を挙げないようにして、比較合戦を避ける。この逆の「推しにまつわる話で関係ない誰かを絡めないこと」も大事。
「キラー・ビー」では「仮想敵」を集団攻撃していくオンラインファンダム問題もとりあげられている。これもほぼ実話。アメリカでは、攻撃対象の個人情報を晒す「ドキシング」を行ったニッキー・ミナージュのファン軍団を対象とした裁判も進んでいる。
K-POP分野のオンラインいじめも深刻な問題になっている。諸研究によると、K-POPアイドル分野は、推しの成功を強く望む「競争的ファンダム」環境。ゆえに「同じジャンルに複数のアーティストはいらない」とばかりに攻撃が激しくなりがち。競争主義に染まらないとファンダムの人気者になりにくいという集団心理も働き、元々やりたくなかったのに注目を買うためバッシングを始める個人の事例も報告されている。
このようなファン行動は、推し個人にも悪影響だそう。競争主義に染まったファンダムでは、内輪の名声のため、デマすらも利用されていく。これが積み重なると「陰謀論だらけのアーティスト」という印象が広まり、業界でも悪評を招く恐れがある。
ファンダム内部のオンラインイジメも、自死を引き起こす危険がとなえられるほどの問題となっている。劇中で命を落として中傷を受けることになるキャラクターの名前は、ビヨンセにまつわる都市伝説が元ネタなのだ。
クリエイターのジャニーン・ネイヴァースによると、2016年にリリースされたビヨンセのアルバム『Lemonade』は、地元ヒューストンの黒人コミュニティで祝福のように扱われた大事な作品だった。一方、夫ジェイ・Zの不倫を糾弾するような内容でもあったため「スターカップルへの幻想が壊れた」として黒人女性ファンが自殺したという都市伝説も流れた。このとき、インターネットユーザーたちは、ビヨンセを讃えながら、自死したとされるファンを嘲って中傷していったという。ドラマでは、こうした軽率な投稿もあって、連続殺人事件が進行していってしまう。
真偽がわからぬ都市伝説から生まれた「キラー・ビー」は、どこまでが幻想かわからないところどころ幻想的で摩訶不思議なドラマにしあがっている。基本的にはエンタメ作なので、思索の一歩にしてみては。
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