過食やジャンクフードをやめる方法を精神科医が指南!

罪悪感をもつのは逆効果。まずは「食べたい」気持ちを認めてあげよう!

assortment of unhealthy snacks
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食べても食べても満たされなかったり、ジャンクフードに走るなど、偏った食生活に陥ったことはない? そんな食習慣の止め方や、ヘルシーな食事へと戻す効果的な方法について、薬に頼らず、患者ひとりひとりのポテンシャルを最大限に引き出す精神療法を30年以上にわたって行い、「偏った食事の習慣は心の状態を映し出している」と語る精神科医の泉谷閑示(いずみや・かんじ)さんにASK!

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「頭」と「心」の対立に原因が
sad and depressed woman sitting on sofa at home
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過食もジャンクフードをやめられないのも、原因は同じです。まずは、そのメカニズムから解き明かしましょう。

現代社会を生きる人のほとんどが、「頭」に支配された生き方をしています。「頭」とは、理論や理屈、ルールや計算を司る場所。私たちは、物心がついたときからルールに従い、さらには周りに合わせるように教育を受けてきているので、どうしても「頭」優位になってしまっています。一方、感情や欲求が沸き起こってくる「心」。「身体」と一心同体でつながっていて、生き物としての人間の基盤はこちらなのです。例えば、「今日は会社に行きたくないな」などと思ったとしても、「頭」が“行くべき”とか“行かねばならない”と「心」由来の感情を打ち消して、しぶしぶ出社をしたという経験のある方も少なくないでしょう。

「心」にフタをすることがトラブルのはじまり
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「頭」が「心」を支配し、心にフタをしてしまった状態が続き、いつしか心に“もやもや”とした行き場のない不満が溜まると、食事が偏るなどライフスタイルに変調が表れます。さらに我慢の限界を超えてしまうと、「心」や「身体」はストライキや反発を起こし、体調不良という形でシグナルを発してきます。これがさらにこじれてしまうと、うつ状態や適応障害など、より深刻な問題へと発展することにもなりかねません。

「頭」主導で食べてはダメ。「心」の欲求を満たそう
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食事の話に戻すと、例えば「1日30品目食べなくちゃ」とか「バランスのよい食事を…」などといった「頭」に刷り込まれた知識に縛られ過ぎてしまうと、「心」と「身体」の素直な欲求がなおざりにされ、「頭」主導で食べることになってしまいます。その結果、食べても食べても「心」が満たされず過食に陥ってしまうことも。

またジャンクフードは塩辛いものが多く、味が刺激的です。激辛のものを食べたくなるのも同じで、単調な毎日に「心」が満たされず、食事による一種の代償行為だと考えられます。つまり、この場合は食で解決するより、自身の生活全般を見つめ直すことが必要。マンネリや妥協に満ちた日常に陥っていないか。自分らしさが犠牲になってはいないか。仕事や趣味などを含め、ライフスタイルや生き方を、一度立ち止まって点検してみましょう。

毎朝、「心」と「身体」をいたわる習慣をつけよう
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それでは、「心」にフタをしていることが多い現代人が、「心」の声や「身体」の欲求をキャッチするにはどうすればよいのでしょうか?

現代社会は「頭」が作り上げた常識やルールで成り立っているため、「心」を優先させたくてもできない場面も多いかもしれません。それでも、不自然さを自身に強いていることを自覚しているだけでも、「心」「身体」は報われた気持ちになるもの。例えば、目覚ましで頑張って起きた朝にも、「無理やり叩き起こしてごめんなさい。でも、週末になったら思う存分朝寝していいからね」と、やさしく自分の「心」「身体」に語りかけてみてはどうでしょうか。

ポソッとつぶやく「心」の声を尊重して
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「頭」が「すべき」「しなくてはならない」というmust・should系の言葉を使う一方で、「心」は「したい・したくない」「好き・嫌い」というwant to系の言葉を使います。また「心」の声の特徴はポソッと小声で囁くもので、「頭」の計算や“べき論”の大きな声にかき消されてしまいがちです。そこで、「頭」と「心」の主従関係を意識的に逆転させるようなイメージを持ってみると、「心」のかそけき声も徐々に聴き取りやすくなってくるはずです。

ジャンクフードに走ったら、罪悪感を捨てて認めてあげよう
bag of potato chips
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過食やジャンクフードに走ってしまった時に、罪悪感を持ってしまいがちですが、これは実は逆効果。「健全な食生活をせよ」と堅苦しい命令をする「頭」に対して、せっかく「心」「身体」が「好きにさせて!」と反逆しているのに、「頭」がさらに罪悪感で追い討ちを加えることになるので、事態はますます泥沼化してしまいます。

心の反逆を力づくで止めようとしても、うまくいきません。その時には、自暴自棄的に見える「心」「身体」の無茶な要求を、まずは寛容に受け止めてみるのです。すると、あるところで「心」「身体」側の反逆も気が済んで、徐々に本来のバランスを取り戻してくれるのです。

ちなみに、睡眠についても同じことが言えます。うつ病の患者さんの多くは、昼夜逆転に陥りがちなものですが、これを主治医から「規則正しい生活をするように」と指導され、それがうまくできずに苦しんでいることが少なくありません。しかし、これも逆に「眠くなったら寝る、起きられる時間に起きる過ごし方で構わないですよ」とお伝えすることで、かえって解決することが多いのです。「規則正しい生活ができていない」という罪悪感から解放され、無理に寝るための睡眠剤もいらなくなり、心持ちがどんどん楽になるので、ある時点から自然に昼夜逆転そのものも解消していくのです。

食事のときには、何を食べたいか? 問いかけよう
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それでは、健全な食生活に戻すにはどうすればよいのでしょうか? まず、食事の時間に自分の「身体」に「何が食べたい?」と問いかけてみましょう。人間は本来、そのときの身体の状態に応じて、必要な栄養素や量を食欲という形で「心」から発するようになっています。寒いときには身体を温めるものを欲し、暑いときには身体の熱を取る生野菜などを欲します。また、夜遅くに食事をした翌朝は、朝食をあまり欲しないなど、自然にバランスをとるようにできています。それを、“栄養学的にこれを食べたほうがよい”などと「頭」主導で仕切ってしまうと、いくら理論的には正しくても、「心」も「身体」も満たされにくくなってしまいます。

「心」が満たされると消費カロリーが上がる
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自然な食欲が欲するものを美味しく食べて幸福感を感じると、私たちの「心」の消費カロリーが上がって「身体」の代謝も活発になります。そうすると、カロリーを摂取したにもかかわらず、それ以上にカロリー消費が活性化するので、案外太りにくいものなのです。逆に、罪悪感を持ちながら食べ、「ああ、また食べちゃった」と後悔するのは、最も太りやすい食べ方なのです。

つまり、「頭」の中途半端な知識や“べき論”に振り回されるのではなく、「心」や「身体」の“内なる声”に導かれた自然なあり方を心がけることが、ジャンクフードや偏った食生活を止めるのはもちろん、ヘルシーで美しい身体へと導く秘訣なのです。

今回、お話を聞いたのは精神科医の泉谷閑示さん
泉谷クリニック 泉谷閑示ドクター

PROFILE  東北大学医学部卒業。精神科医。薬物を使わない精神療法専門の泉谷クリニック(東京・広尾)院長。東京医科歯科大学医学部附属病院等に勤務したのち渡仏、パリ・エコールノルマル音楽院に留学。音楽家としても活動している。著書は『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)、『「心= 身体」の声を聴く』(青灯社)、『仕事なんか生きがいにするな』(幻冬舎新書)ほか多数。

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