パリジェンヌ美容の現在とは? 英国人ジャーナリストが考察するフランス流ビューティ

「フランス女性はメイクアップルーティンに多くのステップがあることを好まないのです」

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エフォートレスかつシックであることを大切にするフランス人。しかし、多様性を意識したゴージャスなメイクアップ、つまりマキシマリズムが流行する今、フランスのミニマルなメイクはどう捉えられているのか疑問に感じるところ。そこでUK版「エル」が、イギリスとフランスの双方の文化に触れた女性たちにインタビュー。それぞれの良さや問題にも触れながら、自分らしいメイクの方法について探った。

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Naomi Rahim
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フレンチシックに見る美の哲学

2年前にパリに引っ越してきたとき、フランス人の基準からすれば、私はあまりにも化粧をしすぎているということに気がついた。

フランス人女性が、より控えめなビューティルックを好むというのは、あまりにもよく知られている事実だが、その哲学を簡潔にまとめるとすれば、“素顔を隠したり飾ったりしすぎる必要はない”というもの。

もちろん、赤いリップで魅惑的に口元を彩ることはフランス人のなかでは当然許容されるべきものではあるが、基本的には洗練されていること、エレガントであること、そして何よりナチュラルであることが、フランス人らしさの典型なのだ。

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パリに降り立った私は、美に対して自分が不健康な考えを抱いていることに気づいた。

多くのイギリス人女性や少女が、厚めに化粧をしたり、過激にいえば、自分の見た目を根本的に変える必要があるとプレッシャーに感じていることは一般に知られている。(イギリスでは近年、手術や注入美容など、美容整形によって顔を変える人の数が増えている)。

このような外見のステレオタイプとして思い浮かぶのは、化粧で着飾っただけの軽薄なルックであり、最近ではサイボーグ的な“インスタグラムフェイス”も増えている。

美容整形をすすめ、画像にフィルターをかけたりいじったりを推奨するインフルエンサー。それに反してフランス人女性は、長所も欠点も含めて、素顔をさらけ出す傾向が強い。このような人工的なものに対する用心深さは、法律で規制をかけるフランス政府の姿勢からも読み取れる。

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Alessandro Viero
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マキシマリズムの流行とフランス人の考え方

2023年、Z世代が牽引するトレンドやTikTokなどから着想を得たマキシマリストのメイクアップが栄華を極めている。この楽しい自己表現の時代にフレンチスタイルの“レス・イズ・モア”という考えは、どうフィットするのだろうか。また、パリジャンが好む自然体な美しさは、どこまで女性を自由にしてくれるのだろうか。

当初、厚く塗られたファンデーションからの解放は、私にとって嬉しい発見だった。しかし、時間が経つにつれ、私の中に懐疑的な見方が芽生え、最終的には内省するという形に置き換わった。

フランス人はより自然で繊細なメイクアップを尊重する。その一方で、メイクを通して楽しく自分を表現することや、厚い化粧をすることを、“下品”かつ不快なことと見なす傾向にある。

私は、このパリでの哲学に利点を見出すと同時に、排他的で頑なな姿勢に限界も感じた。

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イギリスでは自己表現としてのメイクが主流

「イギリスにおいて、大胆なメイクアップは会話のきっかけになります」と話すのは、イギリス系フランス人のインフルエンサーでUK版「エル」のコントリビューティングエディターであるカミーユ・シャリエール。

「一方パリでは、そのようなメイクだと軽蔑の目で見られたり、鼻で笑われたりします」と話す。したがってパリ生まれのカミーユは、他のフランス人と同様、幼少期はほとんど化粧をしなかったと言う。

大人になってから(特にロンドンに移ってから)彼女はメイクアップを楽しむようになった。それが濃いめでもミニマルであっても、クリエイティブな表現のひとつとしてそれを完全に受け入れるようになる。

「年齢を重ねるごとに、自分の女性らしさを受け入れたいと思うようになったんです」

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カミーユによると、フランス人がマキシマリストや派手に着飾るスタイルを嫌うことは、文化的な保守主義や家父長制の姿勢に根差しているとのこと。

「フランスでは、“パーフェクト”な女性はメイクをする必要がないという考えがあります。フランス人女性はメイクにおいてエフォートレスに見え、またレギンスを履いてジムに向かっている姿も見せません」

カロリーヌ・ド・メグレ、ジャンヌ・ダマス、そしてジェーン・バーキン(例外なく白人で、細い人たち)のような、ミステリアスで髪をかき乱したスタイルのエレガントな人たちの姿を思い出してみよう。彼女たちのスタイルが、フランスでは今でも理想的とされているのだろう。

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イギリスでは、恐らく理想的な女性というのは存在しないのかもしれない。メイクやスタイルの話になったとき、イギリスでは自分をまず優先する姿勢を取っているので、より実験的で、多様性豊かなルックが容認されているのだ。

「ロンドンに住んでから、私はイギリスのやり方を受け入れるようになりました。でも、ロンドンであろうとパリであろうと、フランス人と交流するときは、メイクの仕方が違うことに気づきました。ある意味、他人から見られていることを自覚しているのです」と、カミーユは話す。

パンクロックや反抗的なファッションの歴史的な発祥地のひとつであるイギリスにおいて人々は、批判をそれほど恐れることなく、自分自身をありとあらゆる方法で表現する自由がある。

一方で、歴史と伝統にプライドを持つフランスでは、日々のファッションやメイクアップスタイルはシックかつクラシックであり、言うまでもなく順応的だ。

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他人をジャッジしないことが大切

「フランスに帰ると、他人が自分をどう評価するかを忘れてしまっていて、人々からのさまざまなコメントや視線が目につきます。"勇敢ね "とか "面白い色ね "といった、クラゲのようなチクチクした褒め言葉があるのです。私の経験では、イギリスではそのようなジャッジはあまり見られません」とカミーユは付け加える。

しかし、育った環境などで身についた批判的な視線を、取り除くことはできるのだろうか。

「私は、自分が人を評価するような判断力のある人間だとは思っていません」とカミーユは言う。

「つまり、他の女性がどのようなメイクをしていようとも、それを判断しないように努めています。ただ、自分自身については時々チェックする必要がありますね。自分に染みついたメッセージが表面化したり、他の人に投影されないようにしなければなりません」

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自分を変えることを好まないフランス人

美容インフルエンサーでプロのメイクアップアーティストのヴィオレットは、フランス人が好む控えめなメイクアップ及びノーメイクは、自己受容に根ざしていると考える。

「イギリスやアメリカのメイクアップ文化はとても魅力的です。グラマラスでパフォーマンスツールとして使われています」

「フランス人は、何かを演じるためにメイクをすることはありません。それは、私たちが誇りを持っているからだと思います。フランス人はメイクで自分を変えることを好みません。もしメイクオフしたときに、自分のその姿を認めることが難しくなるからです」

コントアリングで顔のパーツを強調したり、オーバーにメイクアップをするような刹那的な美容トレンドが、ヴィオレットの興味を引くことはない。実際これは、最もファッショナブルなフランス女性にとっての真実だ。パリが世界のファッションと美容の最先端であると考えられていても、だ。

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特にメイクに関しては、頑張りすぎている印象を与えることは最大の間違いだと考えている。

「例えば、フランス人はコントアリングが嫌いです。ファンデーションやパウダーが肌の上に塗られているのがはっきりわかるのも好みません」

「一般的に、フランス人女性はメイクアップルーティンに多くのステップがあることを好まないのです」

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フランスで初めて感じたメイクからの解放

ロンドン出身で、「エルメス」のクリエイティブコーディネーターであるアリス・キングにとって、過去6年間パリに住んでいた経験は、彼女を自由にしたと話す。

「毎日メイクすることを期待されないのは、本当に爽快でした。メイクをする必要がないので、仕事のために準備する時間を少なくできます」

「パリに住んでから、私は毎日のメイクアップの時間を削減し、基本的にはほぼ時間を要しませんでした。フランス人女性は、化粧品を買ったり塗ったりする時間が少ない一方で、肌のお手入れに時間をかけています。パリの大通りには必ずと言っていいほど薬局があり、そこには国際的に人気のあるスキンケア用品が並んでいます」

「フランス人はスキンケアにとても熱心なんです。スキンケアに時間とお金をかけています」とヴィオレットも認めている。

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はっきりしているのは、「シャネル」の味方であろうと敵であろうと、メイクアップや美容の基準に関しては、どちらも女性を完全に“自由”にしていないということだ。

しかし、イギリス人はより広い範囲の美容スタイルを受け入れる傾向があるのに対し、フランス人はより狭く、より保守的な考え方を守っている。

「フランスの美の文化にはポジティブなものがたくさんあります。女性がより優雅に歳を重ねたり、よりシンプルなファッションやメイクを楽しむのは素晴らしいことです」とカミーユは主張する。

「しかし人々が、何が正しくて何が間違っているのかについて、非常に厳格かつ硬直した考え方であることはまた、文化に損失を与えているとも感じます」

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今のところ、カミーユはロンドンにいる方が自由だと感じている。

「おそらく私はイギリスを信じられられないくらい自由なところとして理想化しているのだと思います。私がどんなファッションやメイクを選んでも、人々はそれを批判するのではなく、むしろ受け入れてくれると分かっているのです」

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世界中どこにいても自分を受け入れる心を持つ

ヴィオレットにとって重要なのは、「世界のどこに住んでいてもアーティストであると同時に自分がミューズであるという双方の意識を持ってメイクアップをすること」だ。

また、ヴィオレットの場合、他人の評価にはこだわらないと言う。

「私は自分のメイク法に満足しているし、批判されても気にしない。最も重要なのは、自分が何者であるかということに心の調和を感じることです」と、締めくくった。

Realization : LYDIA FIGES、Translation & Text : Nathalie Lima KONISHI

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